人口予測のモデル#2


前回の記事では Malthus による人口予測のモデルを扱った.前回のモデルには多くの問題点があったが,そのなかの一つ,人口が限りなく増加してしまうという点について,1837年にオランダの生物学者 Verhulst(フェルフルスト)が 人口過密 を考慮に入れた修正を提案した.

Model 2.1(Verhulst の人口モデル)
時刻 $t$ におけるある国の総人口 $N = N(t)$ は,時刻 $t=0$ における人口 $N_0$ と定数 $\gamma , M$ を用いて
\[
N = \frac{M}{1 + \left(\frac{M}{N_0}-1\right)e^{-\gamma t}}
\]
と表されると予測できる.

 

今回はこのモデルについてのメモ.
 

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導出

Malthus のモデルにはなかった新たなパラメータ $M$ は,人口の上限である.

人口は文明が継続し得る限り増加するが,上限 $M$ がある(より正確には,人口は時間とともにある値 $M$ へと収束する)とする.また,人口変化 $dN/dt$ は,次の二つに比例すると仮定する.

(a) 現在の人口 $N$
(b) 未利用の人口資源の上限に対する比 $(M-N)/M$

補足1

すなわち
\[
\frac{dN}{dt} = \gamma N \cdot \frac{M-N}{M} \tag{1}
\]
とした.これは
\[
\frac{M}{N(N-M)}\frac{dN}{dt} = -\gamma
\]
とできるから
\begin{eqnarray*}
\log{\left(1-\frac{M}{N}\right)} & = & \log{(N-M)} – \log{N} \\
& = & \int \left(\frac{1}{N-M} – \frac{1}{N}\right) \,dN \\
& = & \int \frac{M}{N(N-M)} \frac{dN}{dt} \,dt \\
& = & \int -\gamma \,dt \\
& = & -\gamma t + C
\end{eqnarray*}
ここで,$C$ は定数である.ゆえに
\[
N = \frac{M}{1-e^Ce^{-\gamma t}}
\]
である.$t = 0$ で $N = N_0$ とするならば
\[
e^C = 1 – \frac{M}{N_0}
\]
であって
\[
N = \frac{M}{1 + \left(\frac{M}{N_0}-1\right)e^{-\gamma t}} \tag{2}
\]
を得る.
補足2


これは $\gamma>0$ である限り,最初の仮定
\[
\lim_{t \to \infty} N = M
\]
を満たしている.

パラメータ $N_0,\gamma,M$ を定めてモデルを当てはめてみる.$N_0$ は 1980 年の日本,米国の総人口でよい.$\gamma,M$ については,定める方法が何通りかある(最小二乗法によるフィッティングなど)が,ここでは 1981 年,1982 年の総人口から定めてみよう.式 $(2)$ は
\[
M = N \frac{1-e^{-\gamma t}}{1-\frac{N}{N_0}e^{-\gamma t}}
\]
と変形できる.簡単のため時刻 $t$ での総人口を $N_t$ とおくことにすると
\[
M = N_1\frac{1-e^{-\gamma}}{1-\frac{N_1}{N_0}e^{-\gamma}} = N_{2} \frac{1-e^{-2\gamma}}{1-\frac{N_2}{N_0}e^{-2\gamma}}
\]
であるから,$\gamma \neq 0$ のとき
\[
\gamma = \log{\frac{N_2(N_0-N_1)}{N_0(N_1-N_2)}}
\]
を得る.また
\[
M = N_1 \cdot \frac{N_2(N_0-N_1)-N_0(N_1-N_2)}{N_2(N_0-N_1)-N_1(N_1-N_2)}
\]
である.

補足3


日本,米国それぞれの添え字を $J,A$ とすると
\[
\gamma_J = 0.03809539121090161 \cdots ,M_J = 144.7565675790468\cdots
\]
\[
\gamma_A =0.05953659511104312\cdots ,M_A = 275.26033318074536\cdots
\]

補足4

結果は以下の表とグラフである.青が実際の人口,橙(V)は Verhulst のモデルによる予測値.なお,1980,1981,1982 年の値は初期値として計算に組み込んでいるため, V の欄は予測値ではなく実測値そのものになる.なお,人口の単位は(百万人)である.

\[
\begin{array}{ccccccc} \hline
year && Japan & JapanV & & America & AmericaV\\ \hline \hline
1980&& 116.77& 116.77& & 227.62& 227.62\\
1981&& 117.62& 117.62& & 229.92& 229.92\\
1982&& 118.45& 118.45& & 232.13& 232.13\\
1983&& 119.27& 119.26& & 234.25& 234.25\\
1984&& 120.05& 120.05& & 236.31& 236.29\\
1985&& 120.80& 120.82& & 238.42& 238.24\\
1986&& 121.45& 121.57& & 240.59& 240.10\\
1987&& 122.03& 122.30& & 242.75& 241.89\\
1988&& 122.55& 123.02& & 244.97& 243.60\\
1989&& 123.03& 123.71& & 247.29& 245.23\\
1990&& 123.44& 124.39& & 250.05& 246.78\\
1991&& 123.93& 125.05& & 253.39& 248.27\\
1992&& 124.37& 125.69& & 256.78& 249.68\\
1993&& 124.77& 126.31& & 260.15& 251.03\\
1994&& 125.12& 126.91& & 263.33& 252.31\\
1995&& 125.44& 127.50& & 266.46& 253.54\\
1996&& 125.71& 128.07& & 269.58& 254.70\\
1997&& 126.01& 128.62& & 272.82& 255.80\\
1998&& 126.35& 129.16& & 276.02& 256.85\\
1999&& 126.59& 129.68& & 279.20& 257.85\\
2000&& 126.83& 130.19& & 282.30& 258.79\\
2001&& 127.13& 130.68& & 285.22& 259.69\\
2002&& 127.40& 131.16& & 288.02& 260.54\\
2003&& 127.63& 131.62& & 290.73& 261.35\\
2004&& 127.73& 132.07& & 293.39& 262.12\\
2005&& 127.75& 132.05& & 296.12& 262.84\\
2006&& 127.75& 132.92& & 298.93& 263.53\\
2007&& 127.76& 133.33& & 301.90& 264.18\\
2008&& 127.69& 133.73& & 304.72& 264.80\\
2009&& 127.55& 134.11& & 307.37& 265.38\\
2010&& 127.59& 134.48& & 309.76& 265.93\\
2011&& 127.83& 134.84& & 312.02& 266.45\\
2012&& 127.55& 135.18& & 314.28& 266.95\\
2013&& 127.33& 135.52& & 316.48& 267.41\\
2014&& 127.12& 135.84& & 318.79& 267.85\\
2015&& 126.98& 136.15& & 321.08& 268.27\\
2016&& 126.90& 136.46& & 323.30& 268.87\\ \hline
\end{array}
\]

グラフでは

Malthus のモデルに比べて,日本の人口予測はかなり精度が向上した.一方米国は逆に曲線が外れてしまっている.しかし値で見れば,1988年までの予測は前回よりよく当てはまっている.

今回は最初の3年からパラメータを直接求めたが,10年ほどの期間でよりよく当てはまるパラメータを選べば,さらに長期の予測ができるらしい.

 

問題点

パラメータの選び方がかなり重要である.

また,過去の実測データから,せっかく設定した上限を,いまの実際の人口が超えてしまっている.

 

とりあえず人口モデルについてはここまで.
 

参考文献

『微分方程式で数学モデルを作ろう』日本評論社
デヴィッド・バージェス/モラグ・ボリー 著
垣田髙夫/大町比佐栄 訳


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