逆行列の公式


正則行列の逆行列,ブロック行列の性質に関連したいくつかの定理・公式についてのノート.

逆行列補題(Woodburyの公式),Schur補行列を用いたブロック行列の逆行列の表現,複素行列の実行列への埋め込みなどをまとめる.

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記号の準備

  • 体 $K$ 上の $m \times n$ 行列を $K^{m \times n}$ で表す.ここでは $K = \mathbb{R}$ または $K = \mathbb{C}$ を考える.
  • $E_n$ を $n$ 次の単位行列とする.特にサイズが明らかな場合は $n$ を省略して,単に $E$ と表記する.
  • ${}^{t} \! A$ は行列 $A$ の転置を表す.
  • $O_{m,n}$ を $m \times n$ 零行列とする.$m = n$ である場合は $O_m$ と表記する.
  •  

    Woodburyの公式

    Theorem 1(Woodburyの公式)

    行列 $A \in \mathbb{C}^{n \times n}$,$B \in \mathbb{C}^{n \times m}$,$C \in \mathbb{C}^{m \times n}$ を考える.行列 $A, ~ A + BC, ~ E_m + CA^{-1}B$ が正則であるとき,次が成り立つ:

    \[
    (A + BC)^{-1} = A^{-1} – A^{-1}B(E_m + CA^{-1}B)^{-1} CA^{-1}
    \]

     
    補足(click)

    「Sherman-Morrison-Woodbury の公式」「逆行列補題」と呼ぶこともある.また,これらの名称は以下に示す Theorem 4 のことを指す場合もある.

     
    証明(click)

    以下で証明する Theorem 4 において $D$ に $m$ 次の単位行列 $E_m$ を代入せよ.

     
    Lemma 2

    正方行列 $P$ に対して,行列 $E+P$ が正則であるとき

    \[
    (E+P)^{-1} = E-(E+P)^{-1}P
    \]

    が成り立つ.

     
    証明(click)

    $$
    \begin{align*}
    (E+P)^{-1}
    &= (E+P)^{-1}(E+P-P) \\
    &= (E+P)^{-1}(E+P)-(E+P)^{-1}P \\
    &= E-(E+P)^{-1}P
    \end{align*}
    $$

     
    Lemma 3

    $P \in \mathbb{C}^{m \times n}$,$Q \in \mathbb{C}^{n \times m}$ に対して,行列 $E_m+PQ$ および $E_n+QP$ が正則であるとき
    \[
    (E_m+PQ)^{-1}P = P(E_n+QP)^{-1}
    \]
    が成り立つ.

     
    証明(click)

    \[
    P(E_n+QP) = P + PQP = (E_m+PQ)P
    \]
    の両辺に左から $(E_m+PQ)^{-1}$,右から $(E_n+QP)^{-1}$ を掛けて
    \[
    (E_m+PQ)^{-1}P = P(E_n+QP)^{-1}
    \]
    が成り立つ.

     
    補足(click)

    $m > n$ であるとき
    \[
    \textrm{rank}(PQ) \leqq \textrm{min}\bigl(\textrm{rank}(P), \textrm{rank}(Q)\bigr) \leqq n < m
    \]
    であるから,$PQ$ は正則行列ではない.$m \leqq n$ の場合は $PQ$ が正則となることがある.

    また,$m = n$ であって $P$ および $E+PQ$ が正則であれば,$E+QP$ も正則である.実際
    \[
    P(E + QP) = P + PQP = (E + PQ)P
    \]
    の両辺の行列式を考えれば
    \[
    \textrm{det}(P) \textrm{det}(E+QP) = \textrm{det}(E+PQ)\textrm{det}(P)
    \]
    であり,$P$が正則ならば $\textrm{det}(P) \neq 0$ であって
    \[
    \textrm{det}(E+QP) = \textrm{det}(E+PQ) \neq 0
    \]
    が成り立つ.したがって $E + QP$ は正則である.$Q$ および $E + PQ$ が正則である場合も
    \[
    Q(E+PQ) = Q + QPQ = (E + QP)Q
    \]
    に対して先ほどの議論を適用すれば $E + QP$ が正則であることが判る.

     
    Theorem 4(Woodburyの公式の拡張)

    行列 $A,B,C,D$ をそれぞれ

  • $A \in \mathbb{C}^{n\times n}$:正則行列
  • $B \in \mathbb{C}^{n \times m}$
  • $C \in \mathbb{C}^{m \times n}$
  • $D \in \mathbb{C}^{m \times m}$: 正則行列
  • とする.行列 $A+BDC, ~ E_m + DCA^{-1}B$ が正則であるとき,次が成り立つ:

    \[
    (A + BDC)^{-1} = A^{-1} – A^{-1}B(D^{-1} + CA^{-1}B)^{-1} CA^{-1}
    \]

     
    証明(click)

    行列 $A$ は正則であるから $A^{-1}$ が存在する.ゆえに

    $$
    \begin{align*}
    (A + BDC)^{-1}
    &= \bigl(A(E_n + A^{-1}BDC)\bigr)^{-1} \\
    &= (E_n + A^{-1}BDC)^{-1}A^{-1} \\
    &= \bigl(E_n – (E_n + A^{-1}BDC)^{-1}A^{-1}BDC\bigr)A^{-1} \\
    &= A^{-1} – (E_n + A^{-1}BDC)^{-1}A^{-1}BDCA^{-1} \\
    &= A^{-1} – A^{-1}(E_n + BDCA^{-1})^{-1}BDCA^{-1} \\
    &= A^{-1} – A^{-1}BDC(E_n + A^{-1}BDC)^{-1}A^{-1} \\
    &= A^{-1} – A^{-1}BDCA^{-1}(E_n + BDCA^{-1})^{-1}
    \end{align*}
    $$

    が成り立つ.ここで2つ目の等号は $(PQ)^{-1} = Q^{-1}P^{-1}$,3つ目の等号はLemma 2,5~7つ目の等号はLemma 3を繰り返し用いた.

    補足(click)

    式変形の過程で現れる各行列の正則性について確認する.

    仮定より $A$ および $A + BDC$ は正則であるから,$E + A^{-1}BDC$ は正則である.

    また,Lemma 3 の補足と $A^{-1}$ が正則であることから,$E+BDCA^{-1}$ は正則である.

    なお,6つ目の等号は正方行列 $BDC$ に Lemma 3 を適用した.$n > m$ ならば $BDC$ は正則ではないが,$E+BDCA^{-1}$ は正則である.

    ▲ 補足ここまで

     

    また,$E_m + DCA^{-1}B$ が正則であると仮定すれば,Lemma 3を用いて

    \[
    DCA^{-1}(E_n + BDCA^{-1})^{-1} = (E_m + DCA^{-1}B)^{-1}DCA^{-1}
    \]

    が成り立つ.さらに,行列 $D$ が正則であるとすれば

    $$
    \begin{align*}
    (E_m + DCA^{-1}B)^{-1}D
    &= \biggl(\bigl((E_m + DCA^{-1}B)^{-1}D\bigr)^{-1}\biggr)^{-1} \\
    &= \biggl(D^{-1}(E_m + DCA^{-1}B)\biggr)^{-1} \\
    &= \biggl(D^{-1} + CA^{-1}B\biggr)^{-1}
    \end{align*}
    $$

    が成り立つことに注意して
    $$
    \begin{align*}
    (A + BDC)^{-1}
    &= A^{-1} – A^{-1}BDCA^{-1}(E_n + BDCA^{-1})^{-1} \\
    &= A^{-1} – A^{-1}B (E_m + DCA^{-1}B)^{-1}DCA^{-1} \\
    &= A^{-1} – A^{-1}B(D^{-1} + CA^{-1}B)^{-1} CA^{-1}
    \end{align*}
    $$

    が示された.

     
    Corollary 5

    $A \in \mathbb{C}^{n \times n}$,$\boldsymbol{u}, \, \boldsymbol{v} \in \mathbb{C}^{n \times 1}$( $n$ 次列ベクトル)とする.$A + \boldsymbol{u} {}^{t}\boldsymbol{v}$ が正則であるとき,次が成り立つ.

    \[
    (A + \boldsymbol{u} \, {}^{t}\!\boldsymbol{v})^{-1} = A^{-1} – \frac{1}{1 + {}^{t}\!\boldsymbol{v} A^{-1} \boldsymbol{u}} A^{-1} \boldsymbol{u} \, {}^{t}\!\boldsymbol{v} A^{-1}
    \]

     
    証明(click)

    Theorem 4 に $B = \boldsymbol{u}$,$C = {}^{t} \! \boldsymbol{v}, \, D = E_n$ を代入すればよい.

     

    ブロック行列の逆行列

    Proposition 6(ブロック対角行列)

    $A \in \mathbb{C}^{m \times m}$,$B \in \mathbb{C}^{n \times n}$ とする.$A, \, B$ が正則であるとき,次が成り立つ:

    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    A & O_{m,n}\\
    O_{n,m} & B
    \end{array}
    \right]^{-1} = \left[
    \begin{array}{cc}
    A^{-1} & O_{m,n}\\
    O_{n,m} & B^{-1}
    \end{array}
    \right]
    \]

     
    証明(click)

    $P \in \mathbb{C}^{m \times m}$,$Q \in \mathbb{C}^{m \times n}$,$R \in \mathbb{C}^{n \times m}$,$S \in \mathbb{C}^{n \times n}$ に対して

    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    A & O_{m,n}\\
    O_{n,m} & B
    \end{array}
    \right]
    \left[
    \begin{array}{cc}
    P & Q\\
    R & S
    \end{array}
    \right] =
    \left[
    \begin{array}{cc}
    AP & AQ\\
    BR & BS
    \end{array}
    \right]
    \]
    が単位行列となるとき
    \[
    AP = E_m, \quad BS = E_n , \quad AQ = O_{m,n}, \quad BR = O_{n,m}
    \]
    が成り立つ.したがって1つ目,3つ目の式に左から $A^{-1}$ を,2つ目,4つ目の式に左から $B^{-1}$ を掛けて
    \[
    P = A^{-1}, Q = O_{m,n}, \quad R = O_{n,m}, \quad S = B^{-1}
    \]
    を得る.

     
    補足(click)

    右辺の行列は $A$ および $B$ が正則である限り必ず存在するから,左辺の行列は正則である.

    また,$A$ の逆行列が $B$ であることの定義は
    \[
    AB = BA = E
    \]
    で考えているが,実は $AB = E$ または $BA = E$ のどちらかが成り立てばもう一方も成り立つことが知られている(齋藤先生の「線形代数入門」など)から,片側のみ調べることにする.

     
    Proposition 7(上三角行列)

    $A \in \mathbb{C}^{m \times n}$ に対して次が成り立つ:

    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    E_m & A\\
    O_{n,m} & E_n
    \end{array}
    \right]^{-1} = \left[
    \begin{array}{cc}
    E_m & -A\\
    O_{n,m} & E_n
    \end{array}
    \right],
    \]
    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    E_n & O_{n,m}\\
    A & E_m
    \end{array}
    \right]^{-1} = \left[
    \begin{array}{cc}
    E_n & O_{n,m}\\
    -A & E_m
    \end{array}
    \right].
    \]

     
    証明(click)

    $A$ が右上にある場合を示す.$P \in \mathbb{C}^{m \times m}$,$Q \in \mathbb{C}^{m \times n}$,$R \in \mathbb{C}^{n \times m}$,$S \in \mathbb{C}^{n \times n}$ に対して

    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    E_m & A\\
    O_{n,m} & E_n
    \end{array}
    \right]
    \left[
    \begin{array}{cc}
    P & Q\\
    R & S
    \end{array}
    \right] =
    \left[
    \begin{array}{cc}
    P + AR & Q + AS\\
    R & S
    \end{array}
    \right]
    \]
    が単位行列となるとき
    \[
    P+AR = E_m, \quad S = E_n , \quad Q + AS = O_{m,n}, \quad R = O_{n,m}
    \]
    が成り立つ.1つ目,4つ目の式から
    \[
    E_m = P + AR = P
    \]
    であり,2つ目,3つ目の式から
    \[
    Q = -AS = -A
    \]
    を得る.$A$ が左下にある場合も同様である.

     
    Define 8

    正方行列 $M$ を次のようにブロック分割する:
    \[
    M = \left[
    \begin{array}{cc}
    A&B\\
    C&D
    \end{array}
    \right]
    \]
    ただし,行列 $D$ が正方行列となるように分割した.

    行列 $A$ が正則であるとき,行列
    \[
    S_A = D – CA^{-1}B
    \]
    を $M$ の $A$ に関する Schur補行列 という.

    行列 $D$ が正則であるとき,行列
    \[
    S_D = A-BD^{-1}C
    \]
    を $M$ の $D$ に関する Schur補行列 という.

     
    Theorem 9-a

    正則行列 $M$ を次のようにブロック分割する:
    \[
    M = \left[
    \begin{array}{cc}
    A&B\\
    C&D
    \end{array}
    \right]
    \]
    ただし,行列 $D$ が正方行列となるように分割した.行列 $A$ が正則であり,$A$ に関するSchur補行列
    \[
    S_A = D-CA^{-1}B
    \]
    も正則であるとき
    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    A&B\\
    C&D
    \end{array}
    \right]^{-1}
    =
    \left[
    \begin{array}{cc}
    A^{-1} + A^{-1}BS_A^{-1}CA^{-1} & -A^{-1}BS_A^{-1}\\
    -S_A^{-1}CA^{-1} & S_A^{-1}
    \end{array}
    \right]
    \]
    が成り立つ.

     
    証明(click)

    行列
    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    A & B \\ C & D
    \end{array}
    \right]
    \]
    を下三角行列,ブロック対角行列,上三角行列の積に分解する(ブロックLDU分解).すなわち,適切なサイズの行列 $P, Q, R, S$ を用いて

    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    A & B \\ C & D
    \end{array}
    \right]
    =
    \left[
    \begin{array}{cc}
    E & O \\ P & E
    \end{array}
    \right]
    \left[
    \begin{array}{cc}
    Q & O \\ O & R
    \end{array}
    \right]
    \left[
    \begin{array}{cc}
    E & S \\ O & E
    \end{array}
    \right]
    \]
    と表現できるとする.右辺を計算すると
    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    Q & QS \\ PQ & PQS+R
    \end{array}
    \right]
    \]
    であり,左辺の各ブロック行列と比較して
    \[
    A = Q , \quad B = QS, \quad C = PQ, \quad D = PQS+R
    \]
    を得る.これより
    \[
    Q = A , \quad S = A^{-1}B, \quad P = CA^{-1}, \quad R = D – CA^{-1}B = S_A
    \]
    を得る.また,Proposition 6 および 7 の結果から
    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    E & O \\ P & E
    \end{array}
    \right]^{-1} = \left[
    \begin{array}{cc}
    E & O \\ -P & E
    \end{array}
    \right]
    =
    \left[
    \begin{array}{cc}
    E & O \\ -CA^{-1} & E
    \end{array}
    \right]
    \]
    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    Q & O \\ O & R
    \end{array}
    \right]^{-1} = \left[
    \begin{array}{cc}
    Q^{-1} & O \\ O & R^{-1}
    \end{array}
    \right]
    =\left[
    \begin{array}{cc}
    A^{-1} & O \\ O & S_A^{-1}
    \end{array}
    \right]
    \]
    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    E & S \\ O & E
    \end{array}
    \right]^{-1} = \left[
    \begin{array}{cc}
    E & -S \\ O & E
    \end{array}
    \right]
    =
    \left[
    \begin{array}{cc}
    E & -A^{-1}B \\ O & E
    \end{array}
    \right]
    \]
    が成り立つから

    $$
    \begin{align*}
    \left[
    \begin{array}{cc}
    A & B \\ C & D
    \end{array}
    \right]^{-1}
    &=
    \left[
    \begin{array}{cc}
    E & S \\ O & E
    \end{array}
    \right]^{-1}
    \left[
    \begin{array}{cc}
    Q & O \\ O & R
    \end{array}
    \right]^{-1}
    \left[
    \begin{array}{cc}
    E & O \\ P & E
    \end{array}
    \right]^{-1} \\
    &=\left[
    \begin{array}{cc}
    E & -A^{-1}B \\ O & E
    \end{array}
    \right]\left[
    \begin{array}{cc}
    A^{-1} & O \\ O & S_A^{-1}
    \end{array}
    \right]\left[
    \begin{array}{cc}
    E & O \\ -CA^{-1} & E
    \end{array}
    \right] \\
    &= \left[
    \begin{array}{cc}
    A^{-1} + A^{-1}BS_A^{-1}CA^{-1} & -A^{-1}BS_A^{-1}\\
    -S_A^{-1}CA^{-1} & S_A^{-1}
    \end{array}
    \right]
    \end{align*}
    $$

    を得る.

     
    Theorem 9-b

    正則行列 $M$ を次のようにブロック分割する:
    \[
    M = \left[
    \begin{array}{cc}
    A&B\\
    C&D
    \end{array}
    \right]
    \]
    ただし,行列 $D$ が正方行列となるように分割した.行列 $D$ が正則であり,$D$ に関するSchur補行列
    \[
    S_D = A-BD^{-1}C
    \]
    も正則であるとき
    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    A&B\\
    C&D
    \end{array}
    \right]^{-1}
    =
    \left[
    \begin{array}{cc}
    S_D^{-1}&-S_D^{-1}BD^{-1}\\
    -D^{-1}CS_D^{-1}&D^{-1}+D^{-1}CS_D^{-1}BD^{-1}
    \end{array}
    \right]
    \]
    が成り立つ.

     
    証明(click)

    行列
    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    A & B \\ C & D
    \end{array}
    \right]
    \]
    を上三角行列,ブロック対角行列,下三角行列の積に分解する(ブロックLDU分解).すなわち,適切なサイズの行列 $P, Q, R, S$ を用いて

    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    A & B \\ C & D
    \end{array}
    \right]
    =
    \left[
    \begin{array}{cc}
    E & P \\ O & E
    \end{array}
    \right]
    \left[
    \begin{array}{cc}
    Q & O \\ O & R
    \end{array}
    \right]
    \left[
    \begin{array}{cc}
    E & O \\ S & E
    \end{array}
    \right]
    \]
    と表現できるとする.あとは Theorem 9-a と同様に計算すればよい.

     
    Corollary 10

    正則行列 $M$ を次のようにブロック分割する:
    \[
    M = \left[
    \begin{array}{cc}
    A&B\\
    C&D
    \end{array}
    \right]
    \]
    ただし,行列 $D$ が正方行列となるように分割した.行列 $A$ および $D$ が正則であり,$A, \, D$ に関するSchur補行列
    \[
    S_A = D-CA^{-1}B, \quad S_D = A – BD^{-1}C
    \]
    も正則であるとき
    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    A&B\\
    C&D
    \end{array}
    \right]^{-1}
    =
    \left[
    \begin{array}{cc}
    S_D^{-1} & -A^{-1}BS_A^{-1}\\
    -S_A^{-1}CA^{-1} & S_A^{-1}
    \end{array}
    \right]
    \]
    が成り立つ.

     
    証明(click)

    Theorem 9-a において $D$ および $A – BD^{-1}C$ が正則であるとき,Theorem 4 より

    \[
    A^{-1} + A^{-1}BS_A^{-1}CA^{-1} = (A – BD^{-1}C)^{-1} = S_D^{-1}
    \]

    が成り立つ.したがって

    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    A&B\\
    C&D
    \end{array}
    \right]^{-1}
    =
    \left[
    \begin{array}{cc}
    S_D^{-1} & -A^{-1}BS_A^{-1}\\
    -S_A^{-1}CA^{-1} & S_A^{-1}
    \end{array}
    \right]
    \]

    が成り立つ.

     
    補足(click)

    Theorem 9-a と 9-b において,行列 $M$ の分割を同じに設定したとすれば,各ブロックに等号が成立する.例えば

    \[
    -A^{-1}BS_A^{-1} = -S_D^{-1}BD^{-1}, \quad -S_A^{-1}CA^{-1} = -D^{-1}CS_D^{-1}
    \]

    が成り立つ.

    複素行列の実行列への埋め込み

    Theorem 11

    $M \in \mathbb{C}^{n \times n}$ が正則であるとする.$A, B \in \mathbb{R}^{n \times n}$ を用いて
    \[
    M = A + iB
    \]
    と表すとき,その逆行列は $C, D \in \mathbb{R}^{n \times n}$ を用いて $M^{-1} = C + iD$ と表すことができて
    \[
    \left[
    \begin{array}{cc}
    A & -B \\
    B & A
    \end{array}
    \right]
    \left[
    \begin{array}{cc}
    C & -D \\
    D & C
    \end{array}
    \right] = E_{2n}
    \]
    が成り立つ.

     
    証明(click)

    $$
    \begin{align*}
    E_n
    &= MM^{-1} = (A + iB)(C + iD) \\
    &= AC + iAD + iBC – BD = (AC – BD) + i(AD + BC)
    \end{align*}
    $$

    となるから,両辺の実部と虚部を比較して
    \[
    AC-BD = E_n , \quad AD + BC = O_n
    \]
    が成り立つ.したがってブロック分割の性質から

    $$
    \begin{align*}
    \left[
    \begin{array}{c|c}
    A & -B \\ \hline
    B & A
    \end{array}
    \right]
    \left[
    \begin{array}{c|c}
    C & -D \\ \hline
    D & C
    \end{array}
    \right]
    &=
    \left[
    \begin{array}{c|c}
    AC-BD & -AD-BC \\ \hline
    BC+AD & -BD+AC
    \end{array}
    \right]\\
    &=
    \left[
    \begin{array}{c|c}
    E_n & O_n \\ \hline
    O_n & E_n
    \end{array}
    \right]
    =
    E_{2n}
    \end{align*}
    $$

    が成り立つ.

    //
     

    適用例

    Proposition 6

    同次座標を用いた $3$ 次元空間の($x$軸周りの)$\theta$ 回転行列
    \[
    \textrm{Rot}(x, \theta) = \left[
    \begin{array}{cccc}
    1 & 0 & 0 & 0 \\
    0 & \cos{\theta} & -\sin{\theta} & 0 \\
    0 & \sin{\theta} & \cos{\theta} & 0 \\
    0 & 0 & 0 & 1
    \end{array}
    \right]
    \]
    に対して
    \[
    \textrm{Rot}(x , \theta)^{-1} = \textrm{Rot}(x , – \theta)
    \]
    である.

     

    Proposition 7

    同次座標を用いた $3$ 次元空間の($x$ 軸方向に $a$,$y$ 軸方向に $b$,$z$ 軸方向に $c$ だけ平行移動する)並進行列
    \[
    \textrm{Trans}(a,b,c) = \left[
    \begin{array}{cccc}
    1 & 0 & 0 & a \\
    0 & 1 & 0 & b \\
    0 & 0 & 1 & c \\
    0 & 0 & 0 & 1
    \end{array}
    \right]
    \]
    に対して
    \[
    \textrm{Trans}(a,b,c)^{-1} = \textrm{Trans}(-a,-b,-c)
    \]
    である.

     

    Theorem 9-b

    $3$ 次正方行列
    \[
    Q = \left[
    \begin{array}{ccc}
    3 & 2 & 0 \\
    -5 & 0 &2 \\
    6 & 1 & -2
    \end{array}
    \right]
    \]
    の逆行列を求める.

     
    詳細(click)

    分解は
    \[
    \left[
    \begin{array}{cc|c}
    3 & 2 & 0 \\
    -5 & 0 &2 \\ \hline
    6 & 1 & -2
    \end{array}
    \right]
    \]
    とした.先に $S_D^{-1}$ を計算しておく.$D^{-1} = -1/2$ であることに注意しておく.
    \[
    S_D = A – BD^{-1}C
    =
    \left[
    \begin{array}{c}
    0 \\
    2
    \end{array}
    \right]
    \left(-\frac{1}{2}\right)
    \left[
    \begin{array}{cc}
    6 & 1
    \end{array}
    \right]
    =
    \left[
    \begin{array}{cc}
    3 & 2 \\
    1 & 1
    \end{array}
    \right]
    \]
    であるから
    \[
    S_D^{-1} = \left[
    \begin{array}{cc}
    3 & 2 \\
    1 & 1
    \end{array}
    \right]^{-1} = \frac{1}{3 \cdot 1 – 2 \cdot 1}
    \left[
    \begin{array}{cc}
    1 & -2 \\
    -1 & 3
    \end{array}
    \right]
    =
    \left[
    \begin{array}{cc}
    1 & -2 \\
    -1 & 3
    \end{array}
    \right]
    \]

    である.Theorem 9-b の各ブロックを計算すると

    \[
    -S_D^{-1}BD^{-1} = -\left[
    \begin{array}{cc}
    1 & -2 \\
    -1 & 3
    \end{array}
    \right]
    \left[
    \begin{array}{c}
    0 \\
    2
    \end{array}
    \right]
    \left(-\frac{1}{2}\right)
    =
    \left[
    \begin{array}{c}
    -2 \\
    3
    \end{array}
    \right]
    \]
    \[
    -D^{-1}CS_D^{-1} = -\left(-\frac{1}{2}\right)\left[
    \begin{array}{cc}
    6 & 1
    \end{array}
    \right]
    \left[
    \begin{array}{cc}
    1 & -2 \\
    -1 & 3
    \end{array}
    \right]
    =
    \left[
    \begin{array}{cc}
    5/2 & -9/2
    \end{array}
    \right]
    \]
    \[
    D^{-1} + D^{-1}CS_D^{-1}BD^{-1}=-\frac{1}{2} -\frac{1}{2}\left[
    \begin{array}{cc}
    6 & 1
    \end{array}
    \right]\left[
    \begin{array}{cc}
    1 & -2 \\
    -1 & 3
    \end{array}
    \right]\left[
    \begin{array}{c}
    0 \\
    2
    \end{array}
    \right]
    \left(-\frac{1}{2}\right)
    = -5
    \]

    である.したがって
    \[
    Q^{-1}
    =
    \left[
    \begin{array}{ccc}
    1&-2&-2\\
    -1 &3&3\\
    5/2&-9/2&-5
    \end{array}
    \right]
    \]

    を得る.

    //
     

    Proposition 11

    $4$ 次正方行列
    \[
    Q = \left[
    \begin{array}{rrrr}
    1 & 1 & 1 & 1 \\
    -i & -1 & i & 1 \\
    -1 & 1 & -1 & 1 \\
    i & -1 & -i & 1
    \end{array}
    \right]
    \]
    の逆行列を 複素数が実装されていない計算機 を用いて求める.

     
    詳細(click)

    $Q$ を実部と虚部に分解すると
    \[
    Q = \left[
    \begin{array}{rrrr}
    1 & 1 & 1 & 1 \\
    0 & -1 & 0 & 1 \\
    -1 & 1 & -1 & 1 \\
    0 & -1 & 0 & 1
    \end{array}
    \right] + i \left[
    \begin{array}{rrrr}
    0 & 0 & 0 & 0 \\
    -1 & 0 & 1 & 0 \\
    0 & 0 & 0 & 0 \\
    1 & 0 & -1 & 0
    \end{array}
    \right] = A + iB
    \]
    である.Theorem 11 より

    $$
    \begin{align*}
    \left[
    \begin{array}{cc}
    A & -B \\
    B & A
    \end{array}
    \right]^{-1}
    &=
    \left[
    \begin{array}{cccc|cccc}
    1 & 1 & 1 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 \\
    0 & -1 & 0 & 1 & 1 & 0 & -1 & 0 \\
    -1 & 1 & -1 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 \\
    0 & -1 & 0 & 1& -1 & 0 & 1 & 0 \\ \hline
    0 & 0 & 0 & 0 & 1 & 1 & 1 & 1 \\
    -1 & 0 & 1 & 0 & 0 & -1 & 0 & 1\\
    0 & 0 & 0 & 0 & -1 & 1 & -1 & 1\\
    1 & 0 & -1 & 0& 0 & -1 & 0 & 1
    \end{array}
    \right]^{-1} \\
    &=
    \frac{1}{4}\left[
    \begin{array}{cccc|cccc}
    1 & 0 & 1 & 0 & 0 & -1 & 0 & 1 \\
    1 & -1 & 1 & -1 & 0 & 0 & 0 & 0 \\
    1 & 0 & -1 & 0 & 0 & 1 & 0 & -1 \\
    1 & 1 & 1 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 \\ \hline
    0 & 1 & 0 & -1 & 1 & 0 & 1 & 0 \\
    0 & 0 & 0 & 0 & 1 & -1 & 1 & -1\\
    0 & -1 & 0 & 1 & 1 & 0 & -1 & 0\\
    0 & 0 & 0 & 0 & 1 & 1 & 1 & 1
    \end{array}
    \right]
    =
    \left[
    \begin{array}{cc}
    C & -D \\
    D & C
    \end{array}
    \right]
    \end{align*}
    $$

    であるから

    $$
    \begin{align*}
    Q^{-1} = C + iD
    &= \frac{1}{4}\left[
    \begin{array}{rrrr}
    1 & 0 & 1 & 0 \\
    1 & -1 & 1 & -1 \\
    1 & 0 & -1 & 0 \\
    1 & 1 & 1 & 1
    \end{array}
    \right] + \frac{i}{4} \left[
    \begin{array}{rrrr}
    0 & 1 & 0 & -1 \\
    0 & 0 & 0 & 0 \\
    0 & -1 & 0 & 1 \\
    0 & 0 & 0 & 0
    \end{array}
    \right] \\
    &= \frac{1}{4}
    \left[
    \begin{array}{rrrr}
    1 & i & -1 & -i \\
    1 & -1 & 1 & -1 \\
    1 & -i & -1 & i \\
    1 & 1 & 1 & 1
    \end{array}
    \right]
    \end{align*}
    $$

    を得る.

    //
     

    20190602 更新


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