無限級数・広義積分に関する定理#2
無限級数・広義積分の計算でよく用いる定理のうち,複素積分や留数定理に関連するものをまとめた.
べき級数,一様収束,Fourier 級数に関連するものは以下にまとめた:
目次
5. 複素積分と留数定理
定理 5.1:Cauchy-Goursat の定理
$f(z)$ を領域 $D$ で正則な関数とする.単純閉曲線 $C$ に囲まれた領域が $D$ に含まれるとき
\[
\oint_{C}f(z)\,dz = 0
\]
が成り立つ.
この定理は Cauchy の積分定理ともよばれる.
定理 5.2:Cauchy の積分公式
$f(z)$ を円 $C$ およびその内部を含む開集合で正則な関数とする.正の整数 $n$ と $C$ の内部の点 $z_0$ に対して
\[
f^{(n)}(z_0) = \frac{n!}{2 \pi i}\oint_{C} \frac{f(z)}{(z-z_0)^{n+1}}\,dz
\]
が成り立つ.
定義 5.3:留数
$a \in \mathbb{C}$ とする.$a$ を除く $a$ の近傍で正則な関数 $f(z)$ が
\[
f(z) = \cdots + \frac{a_{-2}}{(z-a)^2}+ \frac{a_{-1}}{z-a} + a_0 + a_1(z-a) + a_2(z-a)^2+\cdots
\]
と Laurent 展開されるとき,$1/(z-a)$ の係数 $a_{-1}$ を $f(z)$ の $a$ における留数といい
\[
\underset{z=a}{\textrm{Res}}\,f(z), \quad \textrm{Res}[f,a]
\]
などと表す.
定理 5.4:留数の計算
点 $a$ が $f(z)$ の $m$ 位の極であるとき
\[
\underset{z=a}{\textrm{Res}}\,f(z) = \frac{1}{(m-1)!}\lim_{z \to a}\frac{d^{m-1}}{dz^{m-1}}\biggl((z-a)^mf(z)\biggr)
\]
が成り立つ.
定理 5.5:留数定理
$D$ を単純閉曲線 $C$ で囲まれた領域とする.$f(z)$ が $D$ に含まれる孤立特異点 $a_1,a_2,\dots,a_n$ を除いて $D \cup C$ で正則であるとき
\[
\oint_{C}f(z)\,dz = 2 \pi i \sum_{k=1}^{n}\underset{z=a_k}{\textrm{Res}}\,f(z)
\]
が成り立つ.
命題 5.6:三角関数を含む定積分
\[
\int_{0}^{2\pi}f(\cos{\theta},\sin{\theta})\,d\theta = \oint_{|z|=1}f\left(\frac{1}{2}\left(z+\frac{1}{z}\right), \, \frac{1}{2i}\left(z-\frac{1}{z}\right)\right)\frac{1}{iz}\,dz
\]
系 5.7:留数定理の広義積分への応用(1)
$P(x)$ 及び $Q(x)$ は互いに素な多項式で,次の条件を満たすとする:
このとき,$Q(z)$ の上半平面 $\{\textrm{Im}(z) > 0\}$ に含まれる零点 $a_1 , a_2 , \dots , a_n$ に対して
\[
\int_{-\infty}^{\infty}\frac{P(x)}{Q(x)}\,dx = 2 \pi i \sum_{k=1}^{n}\underset{z=a_k}{\textrm{Res}}\,\frac{P(z)}{Q(z)}
\]
が成り立つ.
系 5.8:留数定理の広義積分への応用(2)
$P(x)$ 及び $Q(x)$ は互いに素な多項式で,次の条件を満たすとする:
このとき,$Q(z)$ の上半平面 $\{\textrm{Im}(z) > 0\}$ に含まれる零点 $a_1 , a_2 , \dots , a_n$ と $\lambda > 0$ に対して
$$
\begin{align*}
\int_{-\infty}^{\infty}\frac{P(x)}{Q(x)}\cos{x}\,dx &= \textrm{Re}\left(2 \pi i \sum_{k=1}^{n}\underset{z=a_k}{\textrm{Res}}\,\left(\frac{P(z)}{Q(z)}e^{i\lambda z}\right)\right), \\
\int_{-\infty}^{\infty}\frac{P(x)}{Q(x)}\sin{x}\,dx &= \textrm{Im}\left(2 \pi i \sum_{k=1}^{n}\underset{z=a_k}{\textrm{Res}}\,\left(\frac{P(z)}{Q(z)}e^{i\lambda z}\right)\right)
\end{align*}
$$
が成り立つ.
系 5.9:留数定理の広義積分への応用(3)
$P(x)$ 及び $Q(x)$ は互いに素な多項式で,次の条件を満たすとする:
このとき,$Q(z)$ の原点及び実軸を除いた複素平面 $\mathbb{C} \setminus [0,\infty)$ に含まれる零点 $a_1 , a_2 , \dots , a_n$ と $0 < \alpha < 1$ に対して
\[
\int_{-\infty}^{\infty}\frac{P(x)}{Q(x)}x^{-\alpha}\,dx = \frac{2 \pi i}{1-e^{-\alpha \pi i}} \sum_{k=1}^{n}\underset{z=a_k}{\textrm{Res}}\,\left(\frac{P(z)}{Q(z)}z^{-\alpha}\right)
\]
が成り立つ.
系 5.10:留数定理の広義積分への応用(4)
$P(x)$ 及び $Q(x)$ は互いに素な実数係数多項式で,次の条件を満たすとする:
このとき,$Q(z)$ の原点及び実軸を除いた複素平面 $\mathbb{C} \setminus [0,\infty)$ に含まれる零点 $a_1 , a_2 , \dots , a_n$ に対して
\[
\int_{0}^{\infty}\frac{P(x)}{Q(x)}\log{x}\,dx =-\frac{1}{2}\textrm{Re}\left(\sum_{k=1}^{n}\underset{z=a_k}{\textrm{Res}}\,\left(\frac{P(z)}{Q(z)}(\log{z})^2\right)\right)
\]
が成り立つ.
注意:$\log{z}$ の偏角 $\theta$ は $0 < \theta < 2\pi$ にとる.
補題 5.11
$a \in \mathbb{C}$ とする.$0 \leqq R_1 < R_2$ に対して,領域 $D = \{z \mid R_1 < |z-a| < R_2\}$ で正則な関数 $f(z)$ が
\[
f(z) = \cdots + \frac{a_{-2}}{(z-a)^2}+ \frac{a_{-1}}{z-a} + a_0 + a_1(z-a) + a_2(z-a)^2+\cdots
\]
と Laurent 展開されるとき,任意の $R_1 < R < R_2$ に対して
\[
\sum_{n =-\infty}^{\infty}|a_n|^2R^{2n} = \frac{1}{2\pi}\int_{0}^{2\pi}|f(a + Re^{i\theta})|^2\,d\theta
\]
が成り立つ.
この結果は Gutzmer の不等式を示すために用いられる.
系 5.12:留数定理の無限級数への応用(1)
$P(x)$ 及び $Q(x)$ は互いに素な多項式で,次の条件を満たすとする:
このとき,$f(z) = P(z)/Q(z)$ の極 $a_1 , a_2 , \dots , a_\ell$ に対して
$$
\begin{align*}
\sum_{n =-\infty}^{\infty}f(n) &=-\sum_{k=1}^{\ell}\underset{z=a_k}{\textrm{Res}}\,\biggl(\pi f(z)\cot{\pi z}\biggr), \\
\sum_{n =-\infty}^{\infty}(-1)^nf(n) &=-\sum_{k=1}^{\ell}\underset{z=a_k}{\textrm{Res}}\,\biggl(\frac{\pi f(z)}{\sin{\pi z}}\biggr)
\end{align*}
$$
が成り立つ.
系 5.13:留数定理委の無限級数への応用(2)
$P(x)$ 及び $Q(x)$ は互いに素な多項式で,次の条件を満たすとする:
このとき,$f(z) = P(z)/Q(z)$ の極 $a_1 , a_2 , \dots , a_\ell$ に対して
$$
\begin{align*}
\sum_{n =-\infty}^{\infty}f\left(n+\frac{1}{2}\right) &= \sum_{k=1}^{\ell}\underset{z=a_k}{\textrm{Res}}\,\biggl(\pi f(z)\tan{\pi z}\biggr), \\
\sum_{n =-\infty}^{\infty}(-1)^nf\left(n+\frac{1}{2}\right) &= \sum_{k=1}^{\ell}\underset{z=a_k}{\textrm{Res}}\,\biggl(\frac{\pi f(z)}{\cos{\pi z}}\biggr)
\end{align*}
$$
が成り立つ.
20190707 更新