Gauss積分:∫e^(-x^2) dx


Gauss 積分
\[
\int_{0}^{\infty} e^{-x^2}\,dx = \frac{\sqrt{\pi}}{2}
\]
を Wallis 積分を用いて導出する方法をまとめた.

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Gauss 積分の定義

定義 1:Gauss 積分

広義積分

\[
\int_{0}^{\infty} e^{-x^2}\,dx = \lim_{R \to \infty}\int_{0}^{R}e^{-x^2}\,dx
\]

を Gauss 積分という.

 

不定積分
\[
\int e^{-x^2}\,dx
\]
は簡単な形で表現できないことが知られている.

Wallis 積分を利用した導出

導出には以下のノートの Wallis 積分に関する結果を利用する:

計算方針の概略

  • $e^{-x^2}$ に関する不等式を導出
  • Gauss 積分と Wallis 積分の関係式を導出
  • 積分に対する Wallis の公式を用いて Gauss 積分の値を求める
 

補題 2:$e^{-x^2}$ の評価

$x \geqq 0$ において,次の不等式が成り立つ:
\[
1-x^2 \leqq e^{-x^2} \leqq \frac{1}{1+x^2}
\]

 
証明(click)

\[
f(x) = e^{-x^2}-(1-x^2), \qquad g(x) = e^{x^2}-(1 + x^2)
\]
とおく.
\[
f'(x) = 2x(1-e^{-x^2}) = \frac{2x(e^{x^2}-1)}{e^{x^2}}
\]
であるから,$f'(x) = 0$ となるのは $x = 0$ のときのみである.増減を調べると $x \geqq 0$ のとき $f(x)$ は単調に増加するから
\[
f(x) \geqq f(0) = 0 \qquad (x \geqq 0)
\]
である.ゆえに
\[
1-x^2 \leqq e^{-x^2}
\]
が成り立つ.$g(x)$ についても同様にして
\[
g(x) \geqq g(0) = 0 \qquad (x \geqq 0)
\]
であるから
\[
e^{x^2} \geqq 1+x^2
\]
両辺ともに正値をとることに注意して逆数をとれば
\[
e^{-x^2} = \frac{1}{e^{x^2}} \leqq \frac{1}{1+x^2}
\]
が成り立つ.

 

補題 3:Gauss 積分と Wallis 積分の関係式

$W_m$ を Wallis 積分 とする:
\[
W_m = \int_{0}^{\pi/2} \sin^m{t}\,dt = \int_{0}^{\pi/2} \cos^m{t}\,dt.
\]
このとき,$n = 1,2,\ldots$ に対して,次の不等式が成り立つ.
\[
W_{2n+1} \leqq \int_{0}^{\infty} e^{-nx^2} \,dx \leqq W_{2n-2}
\]

 
証明(click)

1つ目の不等号を示す.
\[
f(t) = \int_{0}^{t}e^{-nx^2}\,dx
\]
とおくと
\[
\frac{d}{dt}\int_{0}^{t} e^{-nx^2}\,dx = e^{-nt^2} > 0
\]
であるから,この積分は $t$ の関数として単調増加と判る.したがって
\[
\int_{0}^{1} e^{-nx^2}\,dx \leqq \int_{0}^{\infty} e^{-nx^2}\,dx
\]
が成り立つ.補題 2 より
\[
1-x^2 \leqq e^{-x^2} \quad (x > 0)
\]
であったが,$0 \leqq x \leqq 1$ においては $1-x^2 \geqq 0$ であるから,$n = 1,2,\ldots$ に対して
\[
(1-x^2)^n \leqq \left(e^{-x^2}\right)^n = e^{-nx^2}
\]
が成り立つ.ここで,$x = \sin{t}$ の変数変換と $\cos^2{x} = 1-\sin^2{x}$ を用いれば
\[
\int_{0}^{1} (1-x^2)^n \,dx = \int_{0}^{\pi/2} (1-\sin^2{x})^n \cdot \cos{t} \,dt = \int_{0}^{\pi/2} \cos^{2n+1}{t}\,dt = W_{2n+1}
\]
であるから
\[
W_{2n+1} = \int_{0}^{1} (1-x^2)^n \,dx \leqq \int_{0}^{1}e^{-nx^2}\,dx \leqq \int_{0}^{\infty} e^{-nx^2}\,dx
\]
を得る.2つ目の不等号を示す.補題 2 より
\[
e^{-x^2} \leqq \frac{1}{1+x^2} \quad (x \geqq 0)
\]
であったが,$x$ の値に関わらず $e^{-x^2} > 0$ であるから,$n = 1,2,\ldots$ に対して
\[
e^{-nx^2} = \left(e^{-x^2}\right)^n \leqq \left(\frac{1}{1+x^2}\right)^n = \frac{1}{(1+x^2)^n}
\]
が成り立つ.ここで,$x = \tan{t}$ の変数変換を考える.積分区間に $x = 0$ が含まれているから, $\tan{t}$ が連続になるように, $t$ の定義域は $-\pi/2 < t < \pi/2$ で考える.$x \to \infty$ のとき $t \to \pi/2$ であるから
$$
\begin{eqnarray*}
\int_{0}^{\infty} \frac{dx}{(1+x^2)^n}
& = & \int_{0}^{\infty} \frac{1}{(1 + \tan^2{t})^n}\cdot\frac{1}{\cos^2{t}}\,dt \\
& = & \int_{0}^{\pi/2}\cos^{2n-2}{t}\,dt \\
& = & W_{2n-2}
\end{eqnarray*}
$$
を得る.ここで,2つ目の等号では $\displaystyle 1 + \tan^2{t} = \frac{1}{\cos^2{t}}$ を用いた.

 
補足(click)

Wallis の公式の利用を考えたために
\[
\int_{0}^{\infty} e^{-nx^2} \,dx \leqq W_{2n-2}
\]
を示したが,上からの評価についてはより具体的なものがすぐに導出できる.補題 2 より
\[
e^{-x^2} \leqq \frac{1}{1+x^2} \quad (x \geqq 0)
\]
であったが,$x = \sqrt{n}t~(> 0)$ とすれば
\[
e^{-nt^2} \leqq \frac{1}{1+nt^2} = \frac{1}{n}\cdot \frac{1}{\frac{1}{n} + t^2}
\]
である.変数変換 $\displaystyle t = \sqrt{\frac{1}{n}}\tan{\theta}$ を用いれば
\[
\int_{0}^{\infty}\frac{1}{n}\cdot \frac{1}{\frac{1}{n} + t^2}\,dt = \int_{0}^{\pi/2} \sqrt{\frac{1}{n}}\,d\theta = \frac{\pi}{2\sqrt{n}}
\]
を得る.この結果を用いても次の 定理 4 を示すことができる.

 

定理 4:Gauss 積分の値の導出

\[
\int_{0}^{\infty} e^{-x^2}\,dx = \frac{\sqrt{\pi}}{2}
\]

 
証明(click)

積分に対する Wallis の公式より
$$
\begin{eqnarray*}
\lim_{n \to \infty}\sqrt{n}W_{2n+1}
& = & \lim_{n \to \infty} \sqrt{2n+1}W_{2n+1} \cdot \frac{\sqrt{n}}{\sqrt{2n+1}} \\
& = & \lim_{m \to \infty} \sqrt{m}W_m \cdot \sqrt{\frac{1}{2}\left(1-\frac{1}{m}\right)} \\
& = & \frac{\sqrt{\pi}}{2}
\end{eqnarray*}
$$
が成り立つ.ここで 2つ目の等号では $m = 2n+1$ とおいた.同様にして
\[
\lim_{n \to \infty}\sqrt{n}W_{2n-2} = \frac{\sqrt{\pi}}{2}
\]
が成り立つことも判る.また,変数変換 $\displaystyle t = \frac{x}{\sqrt{n}}$ を用いると
\[
\int_{0}^{\infty}e^{-nt^2}\,dt = \frac{1}{\sqrt{n}} \int_{0}^{\infty} e^{-x^2}\,dx
\]
を得る.これと 補題 3 より
\[
\sqrt{n}W_{2n+1} \leqq \int_{0}^{\infty} e^{-x^2} \,dx \leqq \sqrt{n}W_{2n-2}
\]
が成り立つ.$n \to \infty$ の極限を考えれば,はさみうちの原理より
\[
\int_{0}^{\infty} e^{-x^2}\,dx = \frac{\sqrt{\pi}}{2}
\]
が示された.

 
補足(click)

関数 $e^{-x^2}$ は連続な偶関数であるから
\[
\int_{-\infty}^{\infty} e^{-x^2}\,dx = 2 \int_{0}^{\infty}e^{-x^2}\,dx = \sqrt{\pi}
\]
である.

 

20190519 更新


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